Q:
私は、34歳の女性で、夫と4歳の娘がいます。都内に在住ですが、川口のとあるアパレルショップで働いています。従業員は30人位です。
勤務先では、就業規則に賃金の定めがありますが、近時、不況のため、賃金が減額されるという噂を聞きました。どこも不況なので、仕方ないとも思いましたが、社長がこのまえ新車を買うなどのぜいたくな暮らしをしているようで、一方的に賃金を切り下げられることには納得できません。それに、主人は非正規雇用なので、経済的に苦しいため、これ以上賃金を下げられたら、生活が成り立ちません。他の従業員も全員、賃金を下げられることには反対しています。
勤務先に労働組合はないのですが、従業員のまとめ役のような人がいて、社長と話し合ってくれたようです。しかし、社長は不況だから仕方ないと繰り返すのみで、労働者側の意見は、きちんと聞いてくれなかったようです。
このまま、賃金は下げられてしまうのでしょうか?

A:
まず、「就業規則」という話が出ましたので、就業規則についてご存じの方もいらっしゃると思いますが、簡単にご説明します。
就業規則とは、簡単に言うと、職場全体に適用される働き方のルールのことです。
そのため、職場で働く労働者の全員が就業規則のルールで働くことになるのが原則です。

Q:
就業規則では賃金についても定められているのですが、就業規則で賃金を変更できてしまうのでしょうか?

A:
就業規則では、賃金についても定めていることが通常ですが、就業規則は労働条件のルールなので、変更することは当然予定されています。
しかし、労働者にとって不利益な変更であっても、使用者が自由に就業規則を変更できてしまうと、労働者にとって、極めて不当な結果になってしまいます。そこで、労働契約法9条では、使用者は、労働者に不利益に就業規則の変更をする場合、労働者の合意を得ることが必要とされています。

Q:
そうすると、労働者の合意が得られない場合には、就業規則は一切変更できなくなってしまいますよね。そうしたら、実際には、就業規則は変更できないことになってしまうのですか?

A:
確かに、労働契約法9条では、使用者は、労働者に不利益に就業規則の変更をする場合、労働者の合意を得ることが必要とされていますが、その例外も認められています。
「就業規則の変更が」諸事情に照らして「合理的なものであるとき」は、不利益であっても就業規則の変更が認められます。
例外的に、労働者の合意がなくても、労働者に不利益に就業規則を変更できる「諸事情」としては、色々な事情があるので、全てをご説明することはできないのですが、今回は、①労働者の受ける不利益の程度と②労働組合等の交渉の状況の2つの事情についてご説明します。

まず、①「労働者の受ける不利益の程度」についてご説明します。
これについては、特に、賃金といった労働契約の根本にかかわる条件なのか、それとも、福利厚生施設などの副次的な条件なのかで、重みづけが変わってきます。
例えば、賃金などの変更の場合には、労働者へ与える影響が重大であると捉えられるため、裁判所は、就業規則を変更する必要性として高度の必要性を求める傾向があります。
一方で、会社の社員食堂など福利施設の利用など、副次的な条件の変更である場合には、労働者へ与える影響はそこまで重大ではないため、就業規則の変更の必要性として、そこまで高度のものを求めることはないと思われます。

次に、②「労働組合等の交渉の状況」についてご説明します。
これについては、実際に労働組合または、労働者の代表者などと使用者がきちんと交渉したかどうかで判断されます。あくまで、きちんと話し合いがあったかが重要なので、仮に話し合いの場が設けられたとしても、使用者が形式論に終始し、労働者と十分話し合った形跡がない、などの事情があれば、認められないことになります。

そこで、今回の場合について考えてみます。
今回は賃金が切り下げられる、とのことなので、労働者の受ける不利益の程度が極めて高いと言えます。そのため、就業規則を変更する必要性は、高度のものが要求されることになります。
そうすると、社長は、不況を理由に賃金を切り下げるとのことですが、どこでも不況であることにはかわらないのですから、これだけでは、労働条件変更の必要性は認められないと思われます。
そして、社長は、従業員のまとめ役のような人との話し合いにも、まともに応じていませんので、「労働組合等の交渉の状況」についてもまともに行われていないことになります。

以上から総合して考えると、賃金を下げるという内容に就業規則を変更することについては、「合理性」がありませんので、従業員が合意していないにもかかわらず、就業規則を不利益に変更した場合、就業規則の変更が無効になると考えられます。そのため、社長が勝手に賃金を引き下げることは違法になると思われます。

(12月28日放送)