Q:
私は川口駅の近くに住んでいる者です。夫と娘の3人で生活していて、都内で契約社員として働いています。
先日の大雪で、電車が止まり、出社できないだろうということで、私の職場が臨時休業になりました。ここのところ、休みがなかったので、そのときは喜びました。ですが、後日、この前の大雪で休みになった日の分のお給料はカットされるという噂が社内で広まっています。
自分の都合で働かなかった場合には、その分のお給与が支払われないというのは、わかります。しかし、大雪で会社が休みになったことは自分の責任ではないので、お給料がカットされてしまうというのは納得できません。
そこで、大雪で会社が休みになったような場合には、お給料がカットされてしまっても法律的に問題ないのでしょうか。

A:
1 ノーワーク・ノーペイの原則
労働契約は、労働者が働く義務を負う代わりに、お給料、つまり、賃金をもらう権利を得るという内容の契約です。
そのため、労働者が、実際に働かないかぎり、使用者は賃金の支払い義務を負いません。これをノーワーク・ノーペイの原則と言います。
しかし、労働者が働くつもりであり、実際に働こうと思えば働ける状況にあるのに、使用者側の都合で、労働の提供を受けつけない場合や、労働ができなくなることもありえます。
このような場合には、法律上どのように判断されるか考えてみましょう。

2 適用法規
労働者の責任によらないで、労務の提供ができなくなった場合には、民法と労働基準法の2つの法律が適用される場合があります。
ただし、この2つの法律がどのように適用されるのかについては、専門的な議論があります。細かい話になりますので、詳細については省略して結論だけご説明すると、民法よりも労働基準法がより広く適用されると考えられています。
そこで、今回は、労働基準法によった場合に、どのように判断されるか、ご説明します。

3 労基法26条の要件・効果
労働基準法26条では、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない」と定められています。
この条文が適用されれば、労働者は、仕事をしなかったとしても、休業手当として、通常もらえる賃金の6割位の額をもらえることになります。

4 「使用者の責に帰すべき事由」の意義
それでは、この「使用者の責に帰すべき事由」とは、どのような場合を言うのかについてご説明します。
先ほどの労働基準法の法律の目的は、労働者の生活を保障することであると考えられています。それで、裁判所は、「不可抗力に該当しない使用者の管理上ないし経営上の責任を含むもの」と判断しています。つまり、使用者がコントロールできないような不可抗力を理由とするものでなければ、この条文は広く適用されるので、休業の場合には平均賃金の100分の60以上の手当てがもらえるということになります。
そのため、例えば、使用者の経営判断のミスにより、取引がうまくいかず、その結果、営業ができなくなった場合などには、手当がもらることになります。

5 本件のご相談の回答
以上を前提に、今回のご相談者からのご質問について考えてみましょう。
大雪が原因で、電車などに影響が生じて仕事が休業になった場合、これは外部的な要因によるものですし、使用者にコントロールできるものでもありません。そのため、大雪などは、一般的には不可抗力として考えられています。
したがって、使用者の責に帰すべき事由には該当しませんので、ご質問のケースでは、使用者に休業手当の支払義務は生じないものと考えられます。
今回のご質問のケースでは、残念ですが、休業手当の支払いを会社に求めることは難しいことになります。
ただし、今回のご質問とは少し違って、勤務時間中に大雪を理由に、早期に帰宅させられたような場合には、場合によっては、全額ではないにせよ、一定の休業手当がもらえる場合もあります。この場合の判断は、かなり専門的な法律知識が必要になりますので、法律の専門家にご相談された方がよろしいと思います。

(平成30年3月8日放送)