Q:
私は34歳の専業主婦です。35歳の夫、7歳の娘と一緒に川口にあるマンションの一室を借りて住んでいます。
先月、娘がデパートの譲渡会で保護猫をもらってきました。しかし、私の住んでいるマンションは、ペットの飼育が一切禁止されていて、賃貸借契約書にも、その旨の記載があります。ですが、娘はもらってきた猫を返したくないらしく、私も娘の希望を尊重したいと思っています。そのため、猫を飼ったまま、今のマンションに住み続けたいと思っています。
ただ、賃貸人である大家さんに無断で飼うのも良くないので、大家さんに事情を説明しました。そうしたところ、大家さんから出て行ってくれと言われてしまい、その後は一切話し合いに応じてくれません。そうこうしているうちに、先日、突然、賃貸借契約を解除するとの通知が送られてきました。
大家さんが話し合いに応じてくれない場合には、マンションを出ていかなければならないのでしょうか?

A:
1 賃貸借解除事由
大家さん、すなわち賃貸人側から、賃貸借契約を解除するには、解除するための理由が必要となります。今回のご相談のケースでは、①契約違反、そして、②用法順守義務違反の2点が考えられます。
まず、契約違反とは、賃貸借契約を締結する際に交わしている契約書に定められた理由に違反することです。
また、用法順守義務違反とは、借りている物件を本来の使用目的以外に使用することをいい、例えば、部屋を不要に汚損したりしないことが挙げられます。

2 信頼関係破壊の法理
解除の理由があれば、民法上は、すぐに契約を解除することができることになります。つまり、契約違反等があれば、即座に賃借人に出て行ってくれといえることになるわけです。
もっとも、賃貸借契約は、売買契約などの、当事者の関係が一回きりで終わる契約とは異なり、当事者の相互の信頼関係を基礎とする継続的に続く契約です。そのため、裁判所も、解除事由があれば、すぐに解除することを認めているわけではなく、一定の制限を加えています。
具体的には、賃借人の行為が賃貸人を裏切り、これ以上、契約を維持するのが妥当ではないとまで言える場合になって初めて解除をすることができるというものです。これを、信頼関係破壊の法理と呼んでいます。
この信頼関係破壊の法理が適用される結果、賃貸借契約が解除されるかどうかは、賃借人の賃貸人に対する背信性の程度が決定的に重要になるということになります。

3 ペットトラブルに関する裁判例
ペットトラブルにより、賃貸借契約の解除が争われた事例もいくつかありますが、そのうちの一つを見てみましょう。
この事案では、契約書にペットの飼育禁止との条項があったものの、賃借人が賃貸人に無断で犬を飼い始め、マンションの共用部分やベランダで放し飼いをするまでになっていました。他にも、共用部分に犬の糞が放置されていたり、近隣の居住者から犬の鳴き声についての苦情も寄せられていました。
このケースにおいて、裁判所は、マンションの居室を明け渡せという賃貸人の請求を認めています。
これは、ペット飼育による実害が近隣居住者にも及んでいたこと、ペットトラブル以外にも、賃借人が近隣住民と度々トラブルを起こしていたこと、賃料の不払いが長期に渡っていたこと等の複数の原因が理由となっています。
逆にいえば、裁判所は、ペットトラブルがあったからといって、即座に賃貸借契約解除をすることまで認めているわけではないと思われます。

4 今回のご相談の結論
そうすると、今回のご相談者の場合には、どのような結論になるか考えてみましょう。
今回のご相談者のケースでは、たしかに契約違反にはあたりますが、近隣居住者に迷惑をかけるようなペットの飼い方をしていないこと、大家に誠実に対応していること、近隣居住者とのトラブルがないことから、信頼関係が破壊されたとまでは評価できないと思われます。
したがって、本件では、信頼関係が破壊されているとまではいえず、賃貸人の解除は認められないと思われます。
ただし、これまでのお話は、賃貸借契約解除が認められないだけの話であって、ペットを飼っていることで、例えば、室内や共用部分を汚損したなどの事情があれば、そちらは、別途、損害賠償請求されてしまうことに注意してください。
いずれにせよ、大家さんから解除通知が来ており、当事者間でのお話し合いが難しいようであれば、弁護士などの法律の専門家に、直接ご相談された方がよろしいと思います。

(11月16日放送)