Q:
私は川口市に住んでいる33歳の専業主婦です。夫とは6年前に結婚しました。
夫は昨年までSEの仕事をしていましたが、昨年その仕事を辞め、今年の初めから、訪問販売の営業の仕事に就いています。毎日、朝6時に家を出て、夜も10時過ぎまでに戻ってきたことがありません。土日もだいたいは仕事に行っています。
私から見ると、夫はここ3か月ほどまともに眠れていないようです。また、先週は、3日ほど、朝起きられず会社に遅刻することがありました。
そこで、夫から話を聞いたら、職場で上司から、日常的に他の従業員の前で「使えないから、早く辞めてくれ!」「売上を上げられないなら、迷惑だから会社に来るな!」などの暴言を吐かれているとのことでした。
友人に相談したところ、その程度の暴言なら一般的によくある話だから、パワハラにならないのではないかと言われましたが、私は納得できません。
そこで、このような暴言がパワハラに当たるのかどうか、その判断基準を教えてください。
また、パワハラにあたるなら、なんらかの対処をしたいと思っていますので、対応策を教えてください。

A:
●はじめに
職場におけるいじめ、嫌がらせなどのパワーハラスメント、略してパワハラが増加傾向にあるのは、ニュースや新聞などでご存知のとおりです。

●パワハラの定義
まずは、どういった行為がパワハラにあたるのかについてご説明します。
パワハラについては、法律上の定義があるわけではありません。もっとも、平成24年に厚生労働省から、「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」が出されています。この報告書では、パワハラは、「同じ職場で働く者に対して、職場上の地位や人間関係なでの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的、身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう」と定義されています。
パワハラにあたるかどうかのポイントは、職務上の地位の優位性だけでなく、人間関係や知識など、事実上の力関係での優位性があることに基づいて、「業務の適正な範囲を超える」行為があったかどうかです。そして、問題となる行為が「業務の適正な範囲を超える」かどうかについては、その行為が、客観的に見てどう評価されるかで判断することになります。
これは、同じ行為であっても、人によって受け止め方が異なることから、判断に客観性を持たせるためです。

●パワハラの類型
パワハラにあたるかどうかの判断に役立つと思いますので、パワハラの類型についてもご説明します。
先ほどご説明した厚労省の報告では、パワハラを6つに分類しています。①身体への暴行・脅迫、②精神への脅迫・名誉毀損・ひどい暴言、③隔離・仲間外れ・無視、④過大な要求、⑤過小な要求、⑥個の侵害、の6つです。
ただし、パワハラはこの6つの類型に限られるわけではありません。

●本件の場合
ご相談者のご主人のケースを見てみると、仕事に関することとはいえ、上司という職務上の地位の優位性に基づき人格を否定するような暴言を言われているわけですから、先ほどの②名誉毀損・ひどい暴言の類型に該当し、パワハラにあたると考えられます。

それでは、どのような対応がとれるか考えてみましょう。
大きく分けると、裁判所以外の方法と裁判所による方法がありますが、裁判所以外の方法には必ずしも実効性があるとは限りませんので、今回は、特に裁判所による方法の1つである労働審判についてご説明します。
以前にもご説明したことがありますが、労働審判には、原則3回の期日で審判が下され早期に紛争が解決すること、手続きにかかる費用も高額ではないこと、会社側も早期解決を望むのが通常なので和解が成立しやすく紛争が泥沼化しないこと等のメリットがあります。
ただし、労働審判は、審判官等が初回の期日でほぼ心証を固めるといわれています。そのため、主張や立証の準備が不十分なまま申立てしてしまうと、有利な結果が得られない可能性が高くなってしまうことに注意してください。
そこで、労働審判を利用するのであれば、まずは、弁護士に相談して、十分に主張と立証の準備を整えてから申立てることをお勧めします。

一方、労働審判ではなく、通常の民事訴訟で争うことも可能ではありますが、時間と費用が相当かかるうえ、判決で必ずしも有利な結果が出るとは限らないことから、簡単にお勧めすることはできません。
なお、お話を聞くかぎり、ご相談者のご主人は法定労働時間を超えて働かれているようなので、残業代の未払いや、過労などの他の問題もあると思われます。大事にならないうちに、弁護士などの専門家にご相談されることをお勧めします。

(10月12日放送)