Q.
私は、川口の安行に住んでいる41歳の女性です。2歳年上の夫と、12歳になる息子がいます。
飲食店の従業員として、10年くらい勤務してきましたが、昨年の新型コロナによる緊急事態宣言のために、営業停止となり、給与が支払われなくなりました。夫の方は、サラリーマンなので、在宅勤務で、ある程度の給料が出ています。
ですが、もともと家計の状況がぎりぎりだったため、それまであった借金に加え、昨年の緊急事態宣言後直後に、新たに借金をせざるを得ませんでした。
借入先は2社です。また、これまでに滞納したことはありません。
コロナがまだ収束しておらず、このまま、借金が増え続け、返済できなくなることが非常に心配です。
破産によって、借金の支払いが免除されることは知っていますが、破産はそもそもしたくありませんし、カードも作れなくなってしまうと聞きました。
弁護士費用の準備も難しい状況です。
何かよい方法はないか、専門の弁護士の先生のご意見をお聞きしたいので質問させていただきます。

A:
1 破産手続きについて
まず破産手続きについて簡単に説明します。
破産手続きの最大のメリットは、借金を免除してもらうという決定、つまり免責決定がもらえれば、税金などの一部の債務を除いて、借金の返済義務がなくなることにあります。
一方で、デメリットとしては、まず、官報に破産者として掲載されるため、破産したことが知られる可能性が否定できません。
また、信用情報機関に登録されるため、数年はカードを作れなくなります。
さらに、破産手続を依頼する弁護士の費用を負担する必要があります。

2 コロナ特則の新設の経緯
しかし、昨年の新型コロナ騒ぎによって、日本全体の景気が低迷したことにより、仕事をクビにならないまでも、収入が減少した方が多いと思います。これまで借金をしないで生活が回っていた方も、コロナにより多額の借金をせざるをえない状況になってしまっています。
そこで、2020年の12月1日から、自然災害債務整理ガイドラインのコロナ特則という制度が新たに利用できるようになりました。
名前が長いのでコロナ特則といいますが、今回は、この制度の特徴や利用の条件について、ご説明します。

3 コロナ特則のメリット
コロナ特則のメリットは、破産手続きと裏腹の関係になります。
まず、破産ではないため、官報に掲載されることはありません。
また、信用情報機関に登録されないので、カードなども従前どおり使い続けることが可能です。
さらに、手続きに協力してくれる登録支援専門家の費用は国が負担します。
ただし、書類の取得費用などの実費は負担する必要があります。

4 コロナ特則の注意点
コロナ特則を利用するにあたって注意点もあります。
最大の注意点としては、あくまで破産ではなく、基本的に任意の債務整理手続であることから、債権者の同意がとれなければ、最終的には、コロナ特則により債務整理することはできないという点です。
仮に、そうなった場合、その後、破産などの手続きが必要になるため、結果的に時間が無駄にかかっただけということになりかねません。
具体的には、多数の債権者がいたり、大手の金融機関以外の債権者がいたりすると、同意が必要な相手が増えるため、コロナ特則の利用には慎重になった方がよいでしょう。

5 利用要件
利用の条件についてご説明しますが、制度が開始したばかりで、議論が固まっていない点も多い状況ですので、今回は、基本的な利用条件についてざっくりとご説明します。
まず、コロナ起因性ともいわれる、コロナによる収入の減少が必要です。
次に、ご家族の収入も含め、年収が790万円以下でなければなりません。
三つ目に、資産が負債より少ないことも必要です。
さらに四つ目として、借金の借入時期は2020年の10月31日以前である必要があります。逆にいえば、2020年11月1日以降の借金については、コロナ特則では免責の対象となりません。
そして、五つ目として、期限の利益喪失事由がないことも必要です。

6 手続きの流れ
こうしたコロナ特則の利用条件を満たしている場合には、まず、最大の債権者に対して、コロナ特則を利用したい旨を申し出ます。最大債権者が申出に応じ、着手同意書という書面を受け取ったら、弁護士会に提出すると、弁護士会が登録支援専門家を選任することになります。
選任された登録支援専門家は利用者に対し連絡し、以降は、利用者と登録支援専門家の間でやりとりをしながら、書類の準備がします。
書類の準備ができたら、債務を整理するという申出を全債権者に行い、最終的に裁判所の特定調停という手続きにより、債権者の同意を得て、手続きが全て完了するという流れになります。
細かい手続きの流れについては、選任される登録支援専門家にお尋ねになるとよいでしょう。
ただし、登録支援専門家は利用者の代理人ではないため、利用者自身で必要書類等はすべて集める必要があります。

7 本件のご相談に対する回答
今回のご相談は、破産手続以外で、債務を整理できないかというものでした。
そうすると、ご相談者のご希望に沿うのは破産手続きよりもコロナ特則であると思われます。また、債権者の数としても、ご相談の場合、2社とのことなので、コロナ特則を利用しやすい事案かと思います。
そのため、今回ご説明した利用条件を満たすかどうか検討したうえで、もし満たすようでしたら、コロナ特則を利用して任意整理をするという方法があるかもしれません。