Q:
私は35歳で川口の木曽呂に住んでいる女性です。同い年の夫と、小学1年生の娘がいます。
川口市内の精密機械の製造販売の会社で正社員として働いています。私の具体的な仕事内容は、精密機械販売の営業なのですが、一昨年に、外資系列の会社から移ってきた人が上司になったこともあってか、最近は、売上目標の達成を厳しく求められています。
年度初めに売上目標を上司に明示することが求められ、年度末には、その目標が達成できたかどうかの振り返りなどをしなければなりません。まじめに勤務していても、売上目標に達しなければ、降格されることも珍しくありません。
一方で、会社には研修はありませんし、売上成績が悪い社員への教育等は一切されていない状況です。
私は、あまり要領がよい方ではないこともあり、仕方なく、自腹で社外の研修などに参加したりして、営業成績を高めようと頑張っていました。 しかし、昨年は、コロナのため、子供が学校に行けない自宅待機の時期があり、子供を一人にできなかったことから、やむなく一定期間仕事を休んだため、売上が大幅に減少してしまいました。
そうしたところ、先日、その上司から、急に解雇を言い渡されました。理由としては、他の営業社員と比べ、私の営業成績が下から3番目であり、就業規則に定められている解雇条件にあたるから、とのことでした。
また、2週間内に自分から退職するなら、諭旨(ゆし)解雇にするとのことでした。
売上が減少してしまったことは事実ですが、急に解雇されても、私も生活があるので途方に暮れているところです。私としては、このまま退職することは考えられず、働き続けたいと考えているのですが、法律的に争う余地はあるのでしょうか。専門の弁護士の先生のご見解をお聞きしたく、質問させていただきます。

A:
1 普通解雇の要件
今回のご相談への回答の前提として、まずは解雇の要件を確認しておきましょう。
通常は、解雇の根拠として、就業規則上に解雇条件が定まっていることがほとんどですので、そもそもその条件に当てはまるかのチェックは必要でしょう。
そのうえで、解雇条件に該当した場合には、労働契約法16条に定める解雇の要件にあたるかどうかの判断になります。
労働契約法16条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めています。

2 勤務成績不良を理由とする解雇が認められる要件
もっとも、この要件では抽象的であるため、どういった勤務成績不良の場合に解雇が許されるのかどうかは直ちに判断できません。
そこで、裁判所は、勤務成績不良の場合の解雇の可否について、おおまかにいえば、様々な事情を考慮したうえで、不良の程度が著しい場合に限って、解雇が許されるとの判断基準で判断してきました。
また、人事考課等の相対評価により勤務成績不良とされている場合、絶対評価とは異なり、制度上、相対評価が低い者が常に存在することになりますから、単に相対評価が低いというだけでは解雇事由に該当するとはいえません。
さらにいえば、能力が不足する場合であっても、いきなりの解雇ではなく、教育訓練や本人の能力に見合った部署への配置転換などにより、解雇回避の措置を尽くすことが求められることもしばしばあり、会社としてこれらの措置を検討せず、漫然と解雇した場合には、厳しく判断されることがあります。

3 中途入社などの場合
ただし、これまで説明してきた要件は、あくまでも新卒採用などで採用され、中途採用のように、元から高い能力を期待されて入社したような場合には妥当しないという点は注意してください。

4 質問に対する回答
それでは、これまでご説明したことを前提にご相談に対する回答を検討していきましょう。
(1)自分から退職しないこと
まず、最も大事なのは、絶対に自分から退職しないことです。
自分から退職したことになってしまえば、解雇の是非を問うことすらできなくなると考えてください。
そのため、基本的には、自分から退職せず、これまで通り、勤務を続け、解雇通知が交付された場合に、その解雇を争うという方針が望ましいでしょう。
(2)本件における解雇の可否
それでは、本件で、解雇の効力を争って、勝てる見込みがあるかどうかですが、解雇の可否は、様々な事情の総合考慮であり、事案ごとのケースバイケースの判断にならざるをえないことから、絶対に勝てるとまでの断言はできません。
もっとも、先ほど述べたとおり、ご相談者を解雇する根拠となった営業成績は相対評価なので、営業成績が最も低い層にあったとしても当然に解雇が許されるわけではありません。
また、会社から、ご相談者の成績不良を解消するための教育などの措置が取られた形跡もありませんから、なおさら解雇が許されない状況であるといえます。
したがって、解雇を争う余地は十分にあると思われます。
(3)具体的な争い方
最後に、具体的な争い方としては、裁判の前に、裁判外での任意交渉を行うのが一般的ではありますが、会社の姿勢が強硬的なのであれば、早期に任意交渉を打ち切り、裁判を起こすことになると思われます。
なお、その場合には、法的かつ専門的な議論になることは確実ですから、法律の専門家である弁護士に相談、依頼された方がよろしいでしょう。