Q:
私は川口の安行に住んでいる46歳の女性です。同い年の夫と二人の息子がいます。
私は、事務職として、20年以上勤務してきましたが、昨年(2020年)の新型コロナウィルスによる緊急事態宣言のために、会社から休業を命じられ、給与が支払われなくなりました。夫も、サラリーマンをしていますが、給料はほとんど出ていません。
もともと、生活費などに充てるため、3年ほど前から、お金を借りていましたが、遅れることなく返済していました。しかし、コロナ禍により、これまで得られていた収入が得られなくなり、返済が厳しくなっています。このままだと、借金の返済ができなくなってしまいそうです。
債務整理に関して、コロナ特則というものがあると知人から聞きましたが、利用にあたっては、着手同意をもらう必要があるとも聞いています。
利用したいと思いますが、専門的な話はよく分からないので、専門の先生のご意見をお聞きしたく、質問させていただきました。

A:
1 コロナ特則について
着手同意について説明する前に、今回の制度そのものである自然災害債務整理ガイドラインのコロナ特則について、簡単にご説明します。
昨年(2020年)の12月1日から、自然災害債務整理ガイドラインのコロナ特則という制度が新たに利用できるようになりました。名前が長いので、以下ではコロナ特則といいます。
コロナ特則を利用するメリットとしては、官報に掲載されないこと、信用情報機関に登録されないこと、そして、書類をそろえる実費以外にはお金がかからないことなどがあります。
一方で注意点としては、あくまでも任意の整理手続ですから、債権者に同意してもらなければ、最終的には、コロナ特則により債務整理することはできず、時間等が無駄になってしまうという点です。

2 着手同意について
次に、着手同意についてご説明します。
コロナ特則を利用するには、まず、手続開始のために、一番多くお金を借りている金融機関から着手同意の書面をもらう必要があります。この金融機関を最大債権者と呼んでいますので、以下でも最大債権者と表現します。
着手同意は、債務者がコロナ特則を利用することについて、最大債権者が合意を示していることを内容とするものです。
この着手同意の書面をもらうために、最大債権者に対し、口頭または、書面で、着手同意の申出をする必要があります。

3 着手同意が得られない場合があること
もっとも、着手同意の申出をしても、最大債権者が着手同意の書面を出してくれないことがあります。よくあるのは、コロナ特則など知らないので、そんな制度の利用には応じられないと担当者から断られるケースです。
これは、コロナ特則が昨年(2020年)12月から始まり、制度開始から日が浅いことや、金融機関への周知が不十分であることなどが原因と考えられます。

4 着手同意が得られない場合の対処
そこで、ご自分で着手同意を申出たものの、最大債権者が適切に対応してくれない場合には、弁護士に、着手同意の代理を依頼することが可能です。この場合、弁護士から、最大債権者に着手同意をするように申入れをし、普通は、ここまですれば、最大債権者としても着手同意の書面を出してくれることが多いでしょう。
それでも、最大債権者が着手同意に応じない場合には、奥の手として、その最大債権者の監督機関に苦情申入れをするという方法もあります。

5 着手同意を得た後の具体的な流れ
着手同意の書面を得た後は、着手同意書の書面を弁護士会に提出することになります。実際には、弁護士会からも、利用者の方に書いていただく書類を案内する必要があるので、まずは、弁護士会に電話連絡して、コロナ特則を利用したいこと、着手同意書をもらっていること、などを説明してください。
なお、埼玉県内の場合、弁護士会は浦和にある埼玉弁護士会以外に、越谷や川越などにも支部がありますが、コロナ特則の利用を申入れる弁護士会は、浦和にある埼玉弁護士会に連絡するようにしてください。越谷や川越支部ではコロナ特則の事務手続きをしていないためです。
その後は、弁護士会から、手続開始に必要な書類の案内や、今後の手続きの流れなどについて説明があります。
弁護士会が、登録支援専門家を選任した後は、その登録支援専門家から連絡がありますので、以降は、その専門家の指示に従って、コロナ特則の手続きを進めてもらうことになります。

6 本件質問に対する回答
本件のご相談者の場合も、ご自分で着手同意を申し出たところ、最大債権者が適切に対応していないということですので、弁護士に着手同意の代理を依頼されるのがよいでしょう。
ただし、制度開始から日が浅いことから、コロナ特則を知らない弁護士もいる可能性もありますから、弁護士事務所などを複数当たって、着手同意の代理に対応してもらえるか確認していただいた方がよろしいと思います。